新教科「情報」授業アイデア集
教科を超えて『情報科』を作ろう!
〜教科「情報」における教員同士の連携〜
 

神奈川県立川崎北高等学校
柴田 功
isao@johoka.net
http://www.johoka.net

1.はじめに
 神奈川県立川崎北高等学校は川崎市宮前区の丘陵地帯に位置し、全日制普通科高等学校として創立28年を迎えます。宮前区唯一の高等学校として地域に密着した学校をめざし、活発な部活動、情報教育を柱とした特色づくりを推進しています。特に情報教育は、平成8年度からスタートし、6年間経験をもとにして、平成13年度からは必修科目として「情報A」を先行実施し、1年生必修科目「情報A」と3年生選択科目「情報基礎」の2科目を展開しています。その授業を担当するのは各教科ブロックから1名以上という校内の取り決めで選出された11名の「情報科」の教員で、授業担当、環境整備、校内研修会、地域向けパソコン教室等に取り組んでいます。ここでは、教科を超えた本校の「情報科」の組織作り実践例を紹介します。
2.本校での情報教育の取組み
(1)選択科目「情報基礎」
 平成8年度から開設している学校設定科目「情報基礎」(3年生2単位・自由選択・3講座)の授業内容はワープロ、表計算、プログラミング、Webページ作成などであり、開講した当時、情報教育の主流だったプログラミングには深入りせず、Webページによる情報発信を最終目標として取り組んできました。また、指導は20名の生徒に対し2人の教員によるティームティーチングで、進行を中心に担当するメインの教員と、生徒のフォローを中心に担当するアシスタント役の教員に分けて進めて行くことにしました。
(2)「情報A」を先行実施
 平成12年度、機種更新等によって生徒用のパソコン60台が導入され、校内LAN、インターネット接続が一気に進みました。これを機会に平成15年度から必修化される新教科「情報」を平成13年度から先行して必修化に踏み切り、1学年に必修科目「情報A」をスタートさせました。主な授業内容は
・ビジネス文書を作ろう
・オリジナル名刺を作ろう
・プレゼンテーションソフトで4コマ漫画を作ろう
・インターネットで検索しよう
・電子メールを活用しよう
といった身近で基礎的な演習を中心にし、最終的に作品ができあがるような教材を心がけております。
3.「情報科」組織作り 
本校の「情報」の授業担当者は平成13年度は、国語1名(4H)、社会1名(2H)、数学4名(16H)、理科3名(10H)、英語1(2H)、体育1(2H)の計11名(36H)と大人数で、幅広い教科の教員が担当しております。
 この職場環境は他校から羨ましがられておりますが、その背景に次の(1)〜(7)のような本校の取り組みがあったと考えられます。
(1)選択科目での実績
 本校が平成8年度から実施している選択科目「情報基礎」で何人かの教員が少しづつ情報教育の指導経験を積んでいった。
(2)基礎的な授業内容
 文系科目の教員に敬遠されがちなプログラミングには深入りしない授業内容だったので、理数系科目以外の教員が指導に参加しやすかった。
(3)メインとアシスタント
 進行役と補助役の分担を作ったことで、アシスタントならばやってもよいと、多くの教員が名乗りを上げてくれた。
(4)全教科から選出
 各教科ブロック(国語、社会、数学、理科、体育+芸術+家庭)から1名以上という校内の取り決めに沿って「情報」の授業担当者を選出し、特定の教科の教員だけに押しつけることをしなかった。
(5)「情報科」という名称
 平成11年度から「情報」の授業を担当する教員チームに「情報科」という名称を付け、予算や教科会議など、既存の教科と同じ扱いにしてきた。
(6)校内LANとInternet
校内LANを職員の手作業で構築し、ケーブルテレビによるインターネット常時接続が職員室に導入されると、約7割の教員がノートパソコンを購入しインターネットを教材研究に使うようになった。
(7)小編成+TT
 選択科目、必修科目ともに小編成クラス+ティームティーチング形式にし、教員が余裕をもって指導できる環境にした。
 以上のような取り組みは本校独自のものと、多くの学校で既に実施しているものがあると思われますが、その中でも大事な点は、教科「情報」は一部の教員だけで担当するものではなく、学校全体で取り組むものなのだという教員全体の意識でないかと思います。
 また、当然のことではありますが、教科「情報」の免許を持った教員がその組織作りのリーダーシップをとることが大切で、免許取得者以外にも教科「情報」を指導できる教員を増やし、すべての教科を巻き込んだ「横断的な教科・情報」をめざしていくべきだと思います。
4.「情報科」教員の連携
 情報の授業担当者が増えたことは喜ばしいことでしたが、本校の場合、担当者全員が2教科の「かけもち」です。そのため「情報」の授業の教材研究や打合せに多くの時間を費やすことができず、苦労しています。そのような状況の中、本校では以下のような工夫をしながら教員間の連携をとっています。
(1)「情報科」打合せ
 本校の時間割の中に情報科打合せの時間を週1コマ設定し、教材研究や環境整備、校内講習会などを行っています。生徒に出す課題は授業担当者が自ら事前にやっておくことを必須にしているので、この時間が「予備演習」になることがよくあります。
(2)メーリングリストの活用
 週1時間の打合せで報告できなかった事項は情報科のメーリングリスト(ML)を活用しています。授業で使えそうなサイトを報告したり、各クラスの授業の進行状況を連絡したり、活発な情報交換が行われています。また、このMLには情報科以外の教員にも参加してもらい、情報の授業の様子が教科外からもわかるようにしています。
(3)Webページによる教材
 「情報」の授業内容はすべてWebページにしてインターネット上に公開してます。
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その目的は
1) 少しでも他校の「情報」の授業の参考になるように
2) 本校の授業担当者への指導案・教材として
3) 本校生徒への教材提示、作品発表の場として
の3つです。
授業の教材をインターネット上に公開するとその教材を見ることができる生徒と、できない生徒の間に「情報格差」が生じて不公平になるので教材は公開しないという考えをもつ先生方もいらっしゃいますが、次回の授業の教材をプリントで生徒全員に配るなどの工夫をすればそのような問題は起こりにくくなります。それよりも、これから必修化される新教科「情報」の授業をどう展開するのかといった実践事例を日本中の「情報」の教員で共有化することの方が大切ではかないでしょうか。生徒に「情報発信」を指導する「情報」の教員が自ら情報発信し、情報科教員の全国的ネットワークを築くべきだと思います。
5.学校間の連携
 校内の連携以外にも、情報教育を担当する高校教員同士のネットワークや小中高校の連携などが全国規模でどんどん進んでおります。神奈川県でも神奈川県高等学校教科研究会・情報部会が平成13年度に発足し、必修化に向けて積極的な活動を始めております。平成13年末には講演、施設見学、授業見学、実践事例の報告会などの内容で3回の研修会を開催し、計200名以上の参加者がありました。また、Webページやメーリングリストによって、積極的な意見交換が始まっております。
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 また、小中高校の情報教育に携わる教員の連携として、地域の小中学校対象に情報交換会を毎年本校で実施しております。情報技術の進歩によって小中高校での情報教育の取り組みは年々変化していくことを考えると毎年、各地区でこうした取り組みが行われることが望ましいと思います。さらに地域向けのパソコン教室や小中学生向けのパソコン教室を開催し、学校が中心となって地域をまきこんだ情報教育を推進していくべきだと思います。本校でも情報の授業でスキルの高い生徒を講師のアシスタントとして活用し、地域向けのパソコン教室で日頃の成果を存分に発揮しております。
6.「情報」担当者から一言 
ここでは、本校の「情報科」11人の教員を対象におこなったアンケートからコメントの一部を紹介します。
(1)「情報」の授業を担当してみようと思ったきっかけ
▼授業を担当することで勉強になる思ったから▼パソコン教室が設置されたので、自分の専門の教科で活用しようと思い、そのステップとして▼本校での「情報」の授業を見て興味を持った▼自分への刺激が欲しかったから▼本校が積極的に取り組んでいるから▼コンピューターを普段使っていて、少しは手伝えると思ったなど
(2)「情報」の授業のおもしろいところ
▼実習を通じて、生徒の意外な一面を見ることが出来ること▼教材研究で新しい知識を得られること。さらにその知識を生徒に教えて喜んでもらえたとき▼座学と実技の両方の要素をもっているところ▼日々進歩している事柄を教えるので、常にフレッシュ▼教材に工夫がたくさんできる▼作品を自力で完成させるところ▼理数系の生徒が有利ではないところ▼多様な能力を発揮できるところ▼縦割りではなく幅広い視野で取り組めるところ▼少人数であり、生徒一人一人の質問・疑問に対応できるところ
(3)「情報」の授業で苦労するところ
▼生徒のスキルに差がある事▼自己表現の苦手な生徒への対応▼自分の勉強不足が授業にでてしまうところ▼スキルアップを要求されることや教材がそろっていないこと▼やる気のない生徒をどう乗せるか▼事前の準備が相当必要なこと▼ハードやソフトウェア、通信等全般にわたる幅広い知識が必要▼世の中の技術進歩が速く、勉強に自己投資も必要▼生徒の突然の質問に対して、上手く指導できないとき自己嫌悪に陥る▼幅広い質問を受けるので、かなりの予習が必要▼生徒に出す課題を自分でもやっておかなければならず、結構時間がかかる▼授業中に思わぬ事が起こる可能性があり、幅広い知識が必要
(4)川崎北高校「情報科」の自慢できるところ
▼教員のモチベーションが高く、皆で作り上げていこうという意欲がある点▼力不足の私にも親切に教えてくれること▼全教科にまたがっているので、理系っぽい考え方に偏らずに『情報』を考えていけること▼躊躇せずに、試しにやってみようという意欲があること▼勢いがあるところ▼多人数で授業を担当しているところ▼職員の手で校内LANを引いてインターネット環境を築いたこと▼リーダーがいて、それをみんなが支えながら手作りですすめているところ▼環境整備などで、学校をあげて後押ししてくれる雰囲気
7.今後の課題
(1)免許取得者が指導しなくてはいけない?
 平成12年度から14年度にかけて全国各地で新教科「情報」現職教員等講習会が実施され、平成15年度の「情報」の必修化がスタートすると、「情報」の授業は「情報」の免許を取得した教員が担当クラスにひとりはいなくてはならないといったことになりそうです。そうなると本校のように国語と体育のような組合せで「情報」の授業を担当することができなくなる可能性が高く、そういう意味では必修化によって教科を超えた教科「情報」の取り組みは後退してしまいます。数学、理科、家庭科以外の教員で、今までの情報教育を支えてきた先生は多く、その先生方の力を無駄にしないためにも、「情報」の免許を取得しばかりの教員と、情報教育を今まで支えてきた経験豊かな教員とが力を合わせていく必要があります。
(2)評価方法の研究
幅広い「情報」の授業内容を幅広い教科の教員が担当することは大変いいことではありますが、評価については、今まで担当してきた教科の経験がもとになってしまい、評価の観点がバラバラになってしまうことがあります。そうならないように、授業に入る前に評価の基準を決めておいて共通の理解のもとで指導する必要があります。このあたりのことは、本校では意識して取り組んできました。
8.おわりに 
もともと「横断的」な教科といわれる「情報」を立ち上げるには学校全体の組織的な取り組みが大切で、一部の教員だけで抱えるようではうまくいかないと思います。さらに、全国的な教科「情報」の実践事例の共有化を早急に進める必要がありますが、情報科の教員のスキルをもってすれば、最も共有化を進めやすい教科のはずです。今後、もっと多くの学校で情報教育の実践事例が公開されることを期待します。

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